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【今週の架空ニュース】「醜い猫」と誹謗中傷…人気ペットインフルエンサー、愛猫の名誉を守る戦いに応援の声

アソベン編集部

おち

♪♪ピンポン


こんにちは、今週の架空ニュースのお時間です。



本日、架空のニュースを解説いただくのがこちら。


吉田 圭佑(弁護士/アディーレ法律事務所)
岩手県出身。中央大学法科大学院を卒業後、弁護士に。現在はアディーレ法律事務所にて、債務整理、交通事故の被害、浮気・不倫の慰謝料問題など幅広い案件を担当する。またプライベートでは多趣味であり、特にアニメ音楽や声優など、 “オタクカルチャー” に造詣が深い。


それでは、

本日の架空ニュースです。


【架空ニュース】「醜い猫」と誹謗中傷…人気ペットインフルエンサー、愛猫の名誉を守る戦いに応援の声

人気ペットインフルエンサーのミサキさん(28)が、愛猫「ルナちゃん」に対するSNS上の誹謗中傷に対して、法的措置を講じることを発表しました。

ミサキさんが日々の生活を発信しているYouTubeチャンネル『ぬくぬくねこ日和』は、登録者数50万人を超える人気を誇っています。しかし最近、SNS上で「醜い猫」「病気持ち」などといったルナちゃんに対する中傷コメントが相次いで投稿されていました。

ミサキさんはYouTubeチャンネルで、「ルナちゃんは私の家族であり、同じことが人間に対して言われたと考えると許せない」と述べ、中傷コメントの投稿者を特定し、法的措置を取る意向を示しました。

この発表を受け、SNS上では「#ルナちゃんを守れ」のハッシュタグが広まり、多くのファンから応援メッセージが寄せられています。ペットへの誹謗中傷に対する名誉毀損の認定がどうなるか、その行方に注目が集まっています。


「ペットへの名誉毀損」は成立するか?

おち

今回のSNSでの誹謗中傷について、ミサキさんは法的措置を取る意向を示していますが、まずどのような対応を取っていくことが考えられるでしょうか?

吉田弁護士

まずSNS上で誹謗中傷された場合の取りうる対応としては、

(ⅰ)削除請求をし、対象となる投稿を削除する

(ⅱ)発信者情報開示請求を行い、投稿者の特定を行ったうえで、行為者に対する損害賠償請求を行う

(ⅲ)『名誉毀損罪』や『侮辱罪』に該当するとして刑事告訴(※)を行う

(※)刑事告訴とは…犯罪の被害者などが、警察などの捜査機関に対して犯罪の事実を申告し、犯人の処罰を求めること。

といった内容が考えられます。

ただし残念ながら、今回のようなペットへの誹謗中傷に対して、刑事で責任を問うことは難しいでしょう。

おち

ペットへの誹謗中傷には、『名誉毀損罪』や『侮辱罪』が成立しないということでしょうか。

吉田弁護士

はい。『名誉毀損罪』や『侮辱罪』は、世間の評価や名声など、「人の」「名誉(社会的評価)」を害する犯罪です。

実際に条文を見ても、

【名誉毀損罪(刑法230条1項)】

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

【侮辱罪(刑法231条)】

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

このように「人の(を)」と明示されています。つまり現在の刑法においては、“ペットの名誉” に法的保護は及んでおらず、誹謗中傷をしても、それ自体で罪に問うことはできません。

おち

なるほど。

吉田弁護士

ただし、

「こんな醜い猫を飼っているミサキも、醜い容貌をしている」
「病気持ちの猫を飼っているミサキも、性病で通院してるらしい。ペットと飼い主でお似合い」

など、誹謗中傷が飼い主のミサキさんにまで及び、ミサキさんの名誉を毀損している場合は、犯罪が成立する可能性がありますね。

おち

あくまで「人(ミサキさん)に対する誹謗中傷の内容」で判断されるということですね。

吉田弁護士

ちなみに『名誉毀損罪』と『侮辱罪』のどちらにあたるかは、主に「事実の適示」があるかないかで区別されます。

たとえば「ブス」という発言は、具体的な事実を適示したといえないため、『侮辱罪』を検討することになるでしょう。

一方で「ミサキは実は整形してるらしいけど、ブスだよな」といった内容は、具体的な事実を適示していると認められ、『名誉毀損罪』が成立する可能性があります。

ここでいう「具体的な事実」は、真実である必要はありません。真実でもウソでも、社会的評価を低下させるような具体的な事実を含んでいれば、『名誉毀損罪』は成立します。

吉田弁護士

【補足解説】

『名誉毀損罪』と『侮辱罪』の成立には「公然性」が必要ですが、非公開でないSNSでの投稿は、基本的に「公然性がある」状態だといえるでしょう。

法的にも、普段少人数の友達と話す分には問題ない発言が、SNSでは問題になることがあるので、注意が必要ですね。


「ペットへの誹謗中傷」に対する損害賠償請求

おち

刑事ではなく、民事で損害賠償請求を行っていく場合はどうでしょうか?

吉田弁護士

SNSで誹謗中傷を受け、損害賠償請求を行っていく場合、主に「権利または利益の侵害」「損害の発生」「侵害行為と損害の発生に因果関係がある」ことを証明する必要があります。

特にミサキさんはペットインフルエンサーであり、そのインフルエンサーとしての人格はペットである「ルナちゃん」によって、成立しているといった解釈もできるでしょう。

たとえば誹謗中傷により、その名誉が侵害されたことで、「ミサキさん自身が精神的な苦痛(損害)を被った」、または「インフルエンサーとしての業務に影響が出て、収益上の損害が発生した」といった内容が認められれば、損害賠償請求が認められる可能性はあります。

おち

なるほど。

吉田弁護士

ただし、損害賠償における要件は具体的に示していく必要があるため、「ペットが誹謗中傷され、精神的に傷ついた」というだけでは、基本的に認められません。

どのような法的措置が取れるかは、具体的な事実(証拠)から、弁護士と相談していくことになるでしょう。

おち

ありがとうございます。それでは「今週の架空ニュース」のお時間はここまでです。

おち

吉田先生、ありがとうございました。

吉田弁護士

ありがとうございました。