ぼったくりの危機を切り抜けろ!【弁護士ならこうする】シミュレーション
アソベン編集部
しょーじ
ぼったくりバー。
取り締まりも厳しくなった昨今、あやしいキャッチにさえ気をつけてたら、「ぼったくりバーに引っかかることなんてないよね」なんて、みなさんは甘く考えてはいないだろうか?
否。
近ごろも「高いけど、まあこれくらいなら…」という絶妙な金額をふっかける「プチぼったくり」が横行し、さらにはマッチングアプリで知り合った女の子に誘われて入った店がぼったくりバーだった、なんてケースもある。
そう。ぼったくりバーは、今もなお犠牲者を出し続けているのだ。
「こっわ…!」
どうする?
どうする??
どうする???
…そうだ!!!
事前にシミュレーションしとけばいいんじゃない??
ということでお呼びしました。
保多 崇志(やすだ たかし)
早稲田大学法学部を卒業後、銀行員のキャリアを経て、弁護士に。主に借金問題などの案件を手掛ける。”坂道系アイドルグループ” の大ファンでもあり、総勢100名ほどの全員の顔と名前を熟知している。東京弁護士会 所属。(情報は掲載日時点)
ぼったくりの危機を切り抜けろ!【弁護士ならこうする】シミュレーション
今日はぼったくりに引っかかったときに「どうやって切り抜ければいいのか」、保多先生とシミュレーションを行っていければと思います。
はい。
とはいえ、「キャッチにはついていかない」「あやしいお店には行かない」「メニューはきちんと確認する」など、まずは引っかからない心がけが大切なんですけどね。
もちろんです。
ただ年々手口も巧妙になっていて、もういつか引っかかってしまうんじゃないかと気が気でなく…
まあどんなに気をつけていても、万が一ということはありますからね。
そうなんです。
そんな「万が一」の状況に陥ってしまったときにも、なんとか切り抜けられるよう、ぜひ今日は保多先生の「弁護士ならこうする!」という適切な対処法を伝授いただければと思っております。
そんな今回の「ぼったくりシミュレーション」はこんな感じ!
~シミュレーション説明~
主人公は、現代社会に巣食う闇を一切知らない、純粋無垢な青年しょーじくん。
しょーじくんが、ぼったくりバーによる「ぼったくりを切り抜ける」ための適切な行動を指示していきましょう。
【シミュレーションの流れ】
①ぼったくりの切り抜けに重要な「5つのシーン」が登場
②各シーンで、取れる行動の選択肢が提示される
③ぼったくりにあった際に、切り抜けるための適切な選択肢を選ぶ
④「弁護士ならこうする!」の選択肢を選べたらクリア、(失敗したら解説を読んで)次のシーンへ
⑤最終的にしょーじくんが「請求された法外な金額」を支払わず、お店を出られればゴール
今回は「ぼったくりにあったときの切り抜け方」のシミュレーションなので、しょーじくんはぼったくりに引っかかってしまいますので、ご注意ください。
万が一、ぼったくりにあって(法外な金額を請求されて)しまっても、その前から適切な行動を取っていれば、被害を最小限に食い止めることができます。
「つい引っかかってしまう場合でも、その時点でどんな行動を取っておくとよいか」という観点で、ぜひお考えいただければと思います。
それでは、
【弁護士ならこうする!】ぼったくりシミュレーション開始です!
【シーン①:路上】
週末、仕事帰りのしょーじくん。給料が入ったばかりの財布を手に、「一杯飲んでから帰ろうかな~」とホクホク顔で繫華街を訪れました。
そこで目に入ってきたのは、「1時間5,000円!飲み放題!」と書かれたプラカードを持った女の子。
「1時間で5,000円なら安いし、いいかも」と考えたしょーじくんは、女の子に詳細を聞いてみることにしました。
相手と自分の主張に差異がある場合、主張の正しさを証明するためには、証拠を用意しておくことが大切です。
結局ぼったくりバーとは、「言った」「言ってない」になってきますもんね。
そうですね。特に手軽に用意できる有効な証拠が、スマホでの「録音データ」です。
のちのちの「言った」「言ってない」を回避し、できるだけ交渉を有利に進めるなら、路上でのサービス内容の説明からやり取りを残しておければいいですね。
こっそり録音したら、逆に法律違反になったりしませんか??
「この会話、録音してもいい?」とは、初対面の人になかなか言いづらいなと (笑)
大丈夫です。
相手に無理やり言わせた内容などでなく、通常の会話であれば、のちに証拠として用いることは可能ですし、それが法律違反にあたる可能性も低いでしょう。
そうなんですね!
相手が悪いことをしたとき、その証明責任は「悪いことをされた方」にあるのが「法律の世界」でもあります。
路上での会話から録音できなかったとしても、入店後など「少しでも怪しいな」と感じたときからでかまいません。
安心して楽しむための、一種の保険のようなものと考えていただければと思います。
【シーン②:飲んでいる最中】
「他にお店を探すのも面倒だしな…」と、女の子について行ってみることにしたしょーじくん。
お店は大通りに面していて、ほかのお客さんも入っていました。
安心したしょーじくんは、お店に入店し「1時間5,000円」の飲み放題メニューを注文。お酒も入り、隣についてくれた女の子との会話も弾みはじめました。
ガールズバーやキャバクラなどのお店では、女性に「私も飲んでいいですか?」とねだられることがありますね。
気前よく「いいよ!」と言いたいところはあるんですが(笑)
聞かされていない様々な名目の料金で、お会計をつりあげていくのが、ぼったくりの常套手段です。
特に女性のドリンクは、店側が「料金」や「頼んだ数」をごまかしやすく、のちのちの証拠として、ちゃんと確認しておいた方がいいでしょう。
ただのケチな客にはならないように、できるだけスマートに言いたいところですね(笑)。
【シーン③:お会計】
飲み放題の1時間が経過し、お会計を頼むことにしたしょーじくん。
「え? 20万…??」
明細をよく見ると、飲み放題の5,000円のほかに、聞いていなかった項目がずらずらと書かれていました。
「ここに書かれている項目、聞いてないのばかりですけど…?」
説明を受けていない法外な金額を請求された場合、「お店側が言ってないという姿勢を崩さないこと」がとにかく大事です。
「説明した!」と言われると、「もしかしたらそうだったかも…」とつい認めちゃうこともありそう。
1度でも認めてしまうと、相手の言い分が有効になってしまうため、説明されていないものは「説明していない」と毅然とした態度で臨むことが大切です。
「説明を聞いてサービスを受けた」、つまり 役務提供契約 が成立してサービスを提供し終わったと判断され、認めたものをあとから覆すのは相当難しくなります。
ただ「言った」「言ってない」の堂々めぐりにはなりそうですね…
やり取りを録音していれば、「言ってない」証明として店側に提示できます。
追加料金の詳細をお店から十分に説明されず、5,000円だと思ってサービスを受けたと認められれば、お店側の説明義務違反は問題になります。双方の合意内容に齟齬があれば、支払い額について十分に争うことが可能です。
ここで録音データが活きてくるわけですね。
また特に今回のケースは、公序良俗違反(民法 第90条)にあたる可能性も高いです。
民法 第90条
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
公序良俗違反?
簡単にいうと、「一般常識で考えて、あまりに妥当性を欠く行為は法律上認められない」というものです。そして、今回の1時間で20万円という請求は、その「妥当性を欠く行為」と言える可能性が高いでしょう。
公序良俗違反にあたれば、店側の法外な請求は認められません。
ちなみに、「20万円」ではなく「3万円」だった場合はどうなりますか?
最近は、「プチぼったくり」なんかも増えているらしいので。
一般的な相場で考えれば、「3万円」という金額はあり得ないことでもありません。
したがって、20万円の場合に比べると、「公序良俗違反」にあたるとは認められない可能性があります。
そうなのか…
どちらにせよ、まずは店側と支払い額を話し合っていく必要はあるので、身に覚えのない店側の主張は認めない姿勢が大切ですね。
【シーン④:相手が強硬姿勢になってきた】
お店側の要求に対して、断固として応じないしょーじくん。
すると、痺れを切らしてきたお店側が、ついに声を荒げてくるように。
「いいから払えよ!」「手持ちがないなら、ATMまで行ってこい」 このままでは、手を出されてしまうかもしれない…
なんで「声を荒げてきた」タイミングで、警察を呼ぶべきなんですか?
声を荒げるなど、相手を脅して金銭を要求する行為は『恐喝罪(刑法 第249条)』にあたります。
刑事上のトラブルになれば、警察に介入してもらうことも可能です。行為がエスカレートし、暴力などにつながる恐れもあるため、このタイミングで警察を呼ぶのが良いと考えられます。
なるほど。警察に来てもらえたら、どうなるんですか?
まず警察が来たからといって、あまり「ぼったくり行為をやめさせてくれる」などの期待はしない方がいいでしょう。あくまで民事上のトラブルなので、警察は積極的に解決に動いてはくれないと考えられます。
ただし、刑事上の問題として警察が介入すれば、店側の強硬姿勢を和らげることにはつながるでしょう。
なるほど。
特に店側は「悪いことをしている」というやましい事情はあり、警察が間に入れば、あまりに合理性のない主張はしづらくなるはずです。
そうなれば、こちら側の主張も通りやすくなり、話をスムーズに進めることが期待できます。
録音があれば、証明もしやすいですしね。
そうですね。
ちなみに、相手が全く声を荒げたりしてこない場合は、警察って呼べるんでしょうか??
その場合、なかなかタイミングが難しいのですが…たとえばひとまず帰りたいと伝えても帰してくれず、ある程度の時間にわたって店から出してもらえない場合は、『監禁罪(刑法 第220条)』にあたる可能性が出てきます。
店から出してもらえない状況が長時間にわたって続けば、身の危険を感じる方もいらっしゃると思いますので、警察を呼び、その状況を解決してもらう手助けをしてもらうのがいいと思います。
【シーン⑤:お店を立ち去る】
警察を呼び、店側と話し合いを重ねたしょーじくん。
警察にうまく入ってもらえたことで、店側の高圧的だった姿勢はやわらぎ、話すことができました。
ただし、どれだけ話をしても店側が「20万円払え!」という主張をやめることはありません。
あ、ここで店を出ちゃうんですね!
そうですね。私ならここで立ち去ることを選択すると思います。
そもそも今回のように法外な請求に納得できず、応じようがないため、支払いを拒否することは犯罪にはなりません。
もし店側が「無銭飲食で犯罪者になるぞ」などと脅してきたとしても、勇気を持って立ち去ってもらえればと思います。
なるほど。
もちろん店側が飲食代金の支払いを求め、民事で裁判を起こすことは考えられます。ただし今回のような法外な請求は、公序良俗違反として無効となる可能性が高いです。
また昨今の裁判例を見てみると、裁判所はぼったくり店に対して厳しい姿勢が見られます。やり取りの録音データなどの明確な証拠があれば、有利に争うことができるといえるでしょう。
まあ、裁判で勝てる見込みがそれほど高くないなら、訴える店もそれほど多くはないかもしれないですね。
そうですね。
ちなみに、「説明を受けた5,000円」は支払った方がいいんですね。
そうですね。
店側と合意し、自分自身も認識していた金額については、支払った方がいいですね。支払う際は証拠として、費用の内訳が書かれた明細書ももらっておくことも大切です。
また今回は警察に通報しましたが、相手が暴力や声を荒げる行為に及ばなかった場合など、警察に通報する前に店を出る選択をしても問題ありません。
ただし、その際にも後日の証拠として残しておくため、警察への届け出は行っておきましょう。
【シミュレーションを終えて】
シミュレーションはここまで!
しょーじくんが無事にぼったくりの危機から切り抜けられて良かったです。
そうですね。
私しょーじも、もしも「ぼったくりに引っかかってしまう」ようなことがあれば、今回のシミュレーションを参考にがんばって切り抜けようと思います。
まずは引っかからないように気をつけていただければと思いますが、
はい。
もしぼったくりにあってしまい、お店側とのやり取りが長引いたり、威圧的な態度を取られたりするようなら、お伝えしたように警察を呼ぶことを検討しましょう。
ありがとうございます。
みなさんも、もしもぼったくりに引っかかってしまった際は、ぜひしょーじくんのように、無事に切り抜けられることをお祈りしております。
「こんなの他人事じゃない…いつ自分が同じ目に遭うかわからない…」