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「蓋し」「誰何」「紊ル」って読める?「法律の難読漢字クイズ」で漢字力をチェック!

アソベン編集部

おち

突然ですが、問題です。

以下の文章の「漢字の読み」をお答えください。

【問題】
犯人蔵匿の罪、証憑湮滅の罪、偽証の罪、虚偽の鑑定通訳の罪及び贓物に関する罪とその本犯の罪とは、共に犯したものとみなす。

【答え】
犯人蔵匿(ぞうとく)の罪、証憑湮滅(しょうひょういんめつ)の罪、偽証(ぎしょう)の罪、虚偽の鑑定通訳(かんていつうやく)の罪及び贓物(ぞうぶつ)に関する罪とその本犯(ほんぱん)の罪とは、共に犯したものとみなす。

遅ればせながらこんにちは、アソベン編集部のおちです。

先ほどの文章は「刑事訴訟法」という法律の第9条第2項の条文なのですが、皆さん問題なく読めましたでしょうか?

ちなみにこの法律の条文は、「犯罪をした人をかくまう『犯人蔵匿罪(刑法 第103条)』、嘘の証言をする『偽証罪(刑法 第169条)』など、“元々の犯罪を助けるようなパターンの犯罪” については、刑事訴訟法 第9条第1項2号を適用します」という内容……だそうです。

私も法律事務所でこの『アソベン』編集者として働いておりますゆえ、いろんな法律の条文や判例(※)などを見たりするのですが、そこで立ちはだかっているのがこうした『難読漢字の壁』

意味がわからない、 というか読み方すらわからない!

……もとより「漢字力」があったなら、どれだけ法律の理解(日々の仕事)を助けてくれていたことでしょう……


(※)判例とは?
裁判所が過去の裁判で示した判断のこと。特に、最高裁判所が示した、後の裁判において判断基準となるような判断を指し、それ以外の判断は「裁判例(さいばんれい)」と呼ばれる。法律の条文は抽象的なものが多いため、裁判や法学では、より具体的な判断の参考になるものとして、判例が非常に重要となる。本記事では、裁判例も含めて、ひろく「判例」と呼ぶこととする。


さて、今回は皆さんが、そんな法律に関わる “難読漢字” を読む「漢字力」をどれだけ備えているのか。

ぜひチェックいただければと、『法律の難読漢字クイズ』を実施させていただければと思います。

そのクイズの出題にあたって、この方にご協力をお願いしました!

山内 涼太(弁護士/アディーレ法律事務所)
東京大学法学部、東京大学法科大学院を経て、弁護士に。現在はアディーレ法律事務所 商品開発部 部長として、未払い残業代請求などの労働事件を手掛ける。一般の人にも「法の専門知」が行き渡る社会を志向し、学生時代には高校生や少年院の少年達に向けた、法律の『出張教室』などにも取り組む。趣味は高校時代に覚えた、麻雀。(東京弁護士会 所属)


もし今後『難読漢字の壁』にぶつかった際にも助けになればと、「法律の難読漢字」に関わるアレコレも教えてもらおうと思います!


全5問。あなたは読める??法律の難読漢字クイズ!

おち

今回は法律における『難読漢字の壁』に備えていただくべく、山内先生に『法律の難読漢字クイズ』を出題いただければと思っています。

山内弁護士

『難読漢字の壁』??

おち

法律をかじりはじめた人がぶつかる、 難しい独特な漢字の壁 です。山内先生にはなかったですか『難読漢字の壁』?

山内弁護士

私は…なかったですかね。逆に難しい漢字が多くて、おもしろいなと思っていました。

おち

え、そうなんですか?

山内弁護士

はい。新しい言葉を読めるようになったり、書けるようになったりしたら、おもしろいじゃないですか。

おち

そういう人もいるんだ。

山内弁護士

なので法律には難しい漢字も多いんですが、ぜひ「こんな言葉もあったんだ」とポジティブに楽しんでいただければと思っています。

おち

がんばります(苦笑)。


ということで、「法律の難読漢字クイズ」はじまります!


実際に「難読漢字」が法律の世界でどのように使われているのか。 “弁護士視点での漢字解説” もいただくので、こちらもぜひチェックいただければと思います!


第1問

Q.
「蓋し」の読み方は?
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A. 蓋し(けだし)
山内弁護士

【弁護士】漢字解説

『蓋し(けだし)』は、 法学部生におなじみの難読漢字。

「なぜなら」 の意味で使われますが、これは法律における “業界用語” 的な使い方 らしく、一般的には「まさしく」「思うに」などの意味で使われるそうです(*1)。

主に『蓋し(けだし)』が出てくるのが、古い判例。

先ほど、「判例」の説明でも述べたように、裁判所は法律に基づいて判断をしますが、実は法律の文言は抽象的で定義が明確でないものもあり、いろんな解釈の余地があります。

法律をどう解釈するかで判断は変わるため、裁判所は判決文などで、どのような見解・解釈を採用したのかを示します。

そこで一昔前に用いられていたのが、『蓋し(けだし)』。

以下のように、「法律の解釈に至った理由を説明する」ための、お決まりのフレーズとして使われていました。

(最高裁昭和30年12月14日大法廷判決)
憲法は、…現行犯…の場合には、裁判官の…令状によらないでも逮捕できるものと…している…。 蓋し 、…犯罪の嫌疑が明白であって、裁判官の判断を待つまでもないからである。(*2)

(*1)出典: デジタル大辞泉(小学館)、Weblio
(*2)出典: 最高裁判所/ 昭和26(あ)3953/ 昭和30年12月14日判決





おち

法曹界ならではの表現。なんか使ってみたくなりますね。

山内弁護士

基本的に判決文など公的な文書で使われることはなくなりましたが、法学では頻出のフレーズとして残り続けている不思議な言葉です(笑)。


おち

今はもう使われなくなったんですね。

山内弁護士

はい。ただ特に法学部生にはあまりになじみ深いフレーズでもあり、司法試験の回答に『蓋し』を使ってしまう人もいるみたいですね。

おち

気持ちわかります。

山内弁護士

ただ一般的な表現ではないので、歓迎はされないようです。司法試験では、毎年採点担当者から講評のようなもの(採点実感)が発表されるのですが、ある年のある科目では 「大いなる反省を求めたい(*3)」と採点官から厳しく指摘されていました。

おち

厳しい…(笑)。あんまり使わない方がいいのか。

山内弁護士

友達同士の冗談で使うくらいにしておいた方がいいと思います(笑)。

(*3)出典:法務省「平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(民事訴訟法)」


第2問

Q.
「誰何」の読み方は?
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A. 誰何(すいか)
山内弁護士

【弁護士】漢字解説

『誰何(すいか)』は、「何者かわからない相手を呼び止めて、問いただす」という意味です。法律では、『準現行犯逮捕』に関する条文の一つ(刑事訴訟法 第212条第2項第4号)で使われています。

目の前で犯罪が行われている瞬間を目撃した場合、 「誰でも」「すぐに」犯人を逮捕できるのが現行犯逮捕 です。

ただ犯行の現場を見ていなくても、 “一定の要件” を満たし、犯罪を「行い終わってから間がない」ことが明らか であれば、現行犯逮捕できます。

『誰何(すいか)』が出てくるのが、この “一定の要件” が書かれた以下の部分です。

1.犯人として追呼されているとき。
2.贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
3.身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
4. 誰何 されて逃走しようとするとき。

たとえば、見知らぬ人が隣の家からコソコソと出てきて、 「どなたですか?」と尋ねた(誰何した)ら逃げようとしたとき、現行犯逮捕できる ということになります。





おち

字面としては簡単なのに、いままで聞いたこともない言葉でした。

山内弁護士

私もこの条文以外でほとんど見たことありません(笑)。ただ最近だと、 “私人逮捕系YouTuber” なんかも出てきたりしているので、この「現行犯逮捕」の法律に関連して、この漢字を見る機会もありそうな気がします。

おち

もし誰かに間違いで「誰何」されても、逃げないようにしないとだな…


第3問

Q.
「畢竟」の読み方は?
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A. 畢竟(ひっきょう)
山内弁護士

【弁護士】漢字解説

『畢竟(ひっきょう)』は、「結局」「つまるところ」という意味です。

この漢字が使われているのは、先ほどの『蓋し(けだし)』と同じく古い判例(たとえば、最高裁昭和39年9月17日第一小法廷判決(民集18巻7号1461頁))。

裁判所が判決の中で、 「畢竟独自の見解」 というフレーズでよく使っていました。

これは 結局、それはあなた独自の見解 で、これまで他の判例で示してきた裁判所の見解と整合しないので、採用できない」 という内容です。

当時、判決文を書いた人としては、おそらく大真面目に書いているのですが、今の我々から見ると 「そこまで言わなくても…」という、なかなかいかめしく感じる表現 となっています。

最近の判決文などでお目にかかることはないですが、弁護士が相手の主張を煽る文句として、書面でコピペ的に使われることはあるかもしれません。





おち

ちなみに昔の裁判所って、なんでこんな難しい表現で判決文書いてるんですかね?

山内弁護士

おそらくですが、当時の法律家たちが触れていた教養は、主に漢文や明治時代の文学作品などになると思うんですね。

おち

昔はテレビとかもないですしね。

山内弁護士

はい。なので普段触れている、そうした文学的な素養の基に書かれていたため、こうした難解な言葉が表現に用いられている部分はあるんだろうと思います。

おち

特に戦前にされた判決文が今でも残っているくらいなので、書く方も文章に気合が入りそうですよね。

山内弁護士

そうですね。裁判は1つの事件を解決するだけじゃなく、場合によっては 重要な解釈や考え方として、その後の様々な紛争まで解決していく ことがあります。

なので裁判官には、自分の示した解釈や考えが、後世まで残っていくことに魅力を感じている方もいて、一つひとつの表現にもこだわって書かれていることはあると思います。


第4問

Q.
「紊ル」の読み方は?
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A. 紊ル(みだる)
山内弁護士

【弁護士】漢字解説

『紊ル(みだる)』は、「(秩序などを)乱す」という意味です。

ここでまず、実際にこの漢字が使われている条文を見ていただければと思います。

其ノ他車内ニ於ケル秩序ヲ 紊ルノ所為アリタルトキ
(鉄道営業法 第42条1項4号)

「鉄道車内の秩序を乱す行為があったとき(は係員は車外に乗客を退去させられる)」 という内容になりますが、これは現在も現役で使われている『鉄道営業法』の条文です。

見ておわかりのとおり、「漢字」と「カタカナ」、そして文語調で書かれています。 これは戦前に制定された法律で用いられていた様式 となります。

今では珍しくなりましたが、その後も長い間、多くの法律ではそのままで条文が残り、現在のような 「口語体ひらがな」 への改正が大きく進んだのは、ここ2、30年ほどの話 です。

それまでは 民法や刑法などの主要な法律 も、同じような「漢字」と「カタカナ」の文章となっていました。

ちなみに刑法の内乱罪にも、「紊乱(びんらん)」として同じ漢字が使われていましたが、改められて今はなくなっています。





おち

今でも小難しいなと思っちゃいますが、法律って昔と比べるとかなりやさしくなってたんですね。

山内弁護士

そうですね。特に平成に入ったくらいから、わかりやすい表現に法律の条文を改正する流れがあり、以前と比べて読みづらく難しい漢字も少なくなりました。

おち

そうだったのか。

山内弁護士

司法試験合格者の増員や法テラス(日本司法支援センター)の設立といった、 法律サービスを一般の人にも身近なものにする取組みが始まったのも同じ頃です。法律自体も一般の人に身近に感じられるよう、今後もわかりやすい表現が追及されていくのではないかと思います。


第5問

Q.
「瑕疵」の読み方は?
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A. 瑕疵(かし)
山内弁護士

【弁護士】漢字解説

『瑕疵(かし)』は、「きず」「欠陥」などの意味です。

この漢字は民法において、「売買された物に欠陥があった場合、買主が売買契約の解除や損害賠償請求をできること」を定めた条文(改正前 民法第570条)に用いられていました。

民法は、どこの法学部でもまず必修となっている基本的な法律ですし、特にこの条文の解釈をめぐっては重要な判例や学説もあり、かつての法学部生にはおなじみの難読漢字

私も学生時代はこの条文を通じ、ノートや答案によく書いたものですが、 2020年の法改正で、「契約の内容に適合しないもの」という言葉に改められました。

馴染みの条文から消えたことで、「これはもう現行の民法から『瑕疵』の文字はなくなってしまったのか…?」と調べてみると、今でも民法の条文内に生き残っているのを確認しました。

たとえば、

錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、 瑕疵 ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。
(民法 第120条2項)

など、いくつかの条文で『瑕疵』の文字は見られます。





おち

弁護士での仕事はパソコンでしょうけど、司法試験では手書きの論述問題がメインなので、難読漢字などの書き方を覚えたりもしてますよね。

山内弁護士

そうですね。なので昔頑張って覚えた用語が法律から消えたりすると、「もう使うことのない知識なんだな…」と少し考えてしまうことはありますね(笑)。

おち

なるほど(笑)。

山内弁護士

ただ法律が「漢字」と「カタカナ」だった時代もあるので、上の世代には私よりもっと感じるところがある方もいるんじゃないかと思います。

そのうえ、2026年を目途にパソコン受験が開始される予定になっていますから、試験のために漢字を覚えるという行為自体が大きく変わるのではないでしょうか。


【おまけ】読み方が違う!独特な法律用語シリーズ

実は法律用語として、一般的な読み方とは異なる漢字があります。

おまけとして最後に、「読み方が独特な法律用語」シリーズとして、まとめて山内先生に聞いてみました!

一般的な読み方は『図画(ずが)』。一般的には絵や絵を描くことを指すが、法律用語では「ある程度持続する状態で、象形的符号を用いて意思又は観念を表示したもの」をいい、写真なども含まれる。

一般的な読み方は『遺言(ゆいごん)』。一方、法律家同士で話す際に『ゆいごん』と聞くと、素人っぽさというか、けっこうな違和感がある。もちろんご依頼者の方など法律家以外と話す際は、ちゃんと伝わるよう『ゆいごん』と言う。

一般的な読み方は『問屋(とんや)』。意味もちょっとした違いがあり、どちらも業者自身の名義で商品の仕入れ・販売を行うが、それによる損益がそのまま業者のものになるのが『問屋(とんや)』、損益は他人のものになり、その他人から得る手数料が収入となる のが『問屋(といや)』となる。

主に『問屋(とんや)』はメーカーと小売業者の間で取引する「卸売業」、『問屋(といや)』は顧客から手数料を得て証券を売買する「証券会社」などが該当する。

一般的な読み方は『兄弟姉妹(きょうだいしまい)』。日常でこの言葉自体使うことは多くないと思うが、法律においては『兄弟』『姉妹』の総称として『兄弟姉妹(けいていしまい)』はよく使われる



「法律の難読漢字クイズ」はここまで!



おち

「法律の難読漢字」に関わるアレコレも知って、なんとなく難しい漢字にも親近感が出てきた気がします。

山内弁護士

無機質に見えるかもしれませんが、どんな条文や判決文も “人” が書いています。それが書かれた背景や歴史に興味を持って読んでみると、法律も身近に感じていただけるかもしれません。

おち

たしかに。『難読漢字の壁』もこれで乗り越えられそうな気がしてきました。

山内弁護士

それはよかったです(笑)。



さて、皆さんは何問読めたでしょうか?!
(私おちは、正解は『瑕疵(かし)』1問のみ……)

全問わかったという「漢字力バツグン」の方も、全然わからなかったという方も、ぜひ難しい漢字や言葉も含めて、法律を “楽しく見て” みていただければと思います!