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電車での盗撮は、どんな犯罪になる?罪の重さや見つけた場合の対処法など、弁護士に聞いてみた!

弁護士

神野由貴

こんにちは、アソベン編集部です。

本日、弁護士に聞いてみる内容がこちら!


「どういう電車での盗撮が犯罪になる?」
「新しく盗撮を罰する法律ができたって本当?」
「盗撮で有罪になると、どのくらいの刑罰が予想される?」

などなど、詳しく教えてもらいます!

今回の内容について教えてくれる弁護士

【きょうの弁護士】神野 由貴
税関職員の経歴を経て、弁護士に。アディーレ法律事務所にて、不貞慰謝料の請求における交渉・訴訟、また弁護士の視点からマーケティング施策などに携わる。プライベートでは、小学生の頃からの歴史好き。歴史ドラマやYouTube、書籍など、普段から様々な歴史コンテンツを楽しみ、時間ができれば、歴史的な名所にも足を運んでいる。(兵庫県弁護士会 所属)


盗撮はどういう罪になる?

いわずもがなではありますが、盗撮は犯罪行為です。

単なる迷惑行為ではなく、被害者に激しい羞恥心を与える卑劣な犯罪として、 法律によって厳しい罰則が設けられています。


そもそもどんな盗撮が犯罪になる?

犯罪となる盗撮は基本的に、 被写体の同意なく、性的な部位(通常は衣服で覆われている部分)や下着などを撮影する行為 です。

具体的には、公共の場所で勝手にスカートの中を撮影することや、トイレや浴場、更衣室など通常衣服の全部、又は一部を着けないでいる空間での同意なき撮影が該当します。

さらに法的に盗撮が問題になるのは、スカートの中など、通常は見えていない部分の撮影だけではありません。たとえば 単に外見を撮影しただけであっても、無断で撮影した場合には、民事上の責任を問われるおそれ があります。

具体的には、「プライバシー侵害」などを理由とする損害賠償請求を受ける可能性があるため、注意しましょう。

このように、盗撮がもたらす法的な影響は多岐にわたります。


電車内の盗撮は『撮影罪』にあたる可能性がある

具体的に、 「電車内での盗撮」は『撮影罪(性的姿態等撮影罪)』にあたる可能性 があります。

『撮影罪』は、「性的姿態撮影等処罰法(※)」で定められた犯罪です。 「正当な理由がなく、ひそかに人の『性的姿態等』を撮影する行為」 が処罰対象の一つとなっており、電車内や駅、商業施設などで行われた盗撮行為にも適用されます。

(※)※正式名称:性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律

『性的姿態等』とは、次の3つのことです。

・人の性的な部位(※性器、肛門、これらの周辺部、臀部、胸部)

・人が身に着けている下着で、現に性的な部位を直接又は間接に覆っている部分

・わいせつな行為又は性交等がされている間の人の姿態

したがって、電車内でスカートの中の下着姿を盗撮する行為は、この法律による処罰対象となります。

『撮影罪』の法定刑は 「3年以下の拘禁刑」又は「300万円以下の罰金」 となっています。

※「拘禁刑」を新設した改正刑法が施行されるまでは、「拘禁刑」は「懲役刑」とされます。


撮影罪ができたのは、2023年7月

ちなみに「性的姿態撮影等処罰法」は、2023年7月13日に新設(施行)された法律です。実はそれまで、 全国共通のルールとして、実効的に盗撮行為を取り締まる法律がありませんでした。

そのため、この法律が新設される前は、主に「軽犯罪法」や「各都道府県の条例」を盗撮行為の処罰根拠としており、電車内の盗撮行為を網羅的に処罰することができなかったのです。




「性的姿態撮影等処罰法」ができる前はどうしてた?

軽犯罪法には、 「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を「拘留又は科料に処する」 という規定があります。

(※)条文上は「のぞき見た者」となっていますが、基本的には盗撮もこれに含まれるとされています。

この規定は盗撮行為の処罰根拠とされてきましたが、「人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所」に限られ、電車内や駅、商業施設などで行われた盗撮行為には適用できません。

このような背景から、 「電車内での盗撮」は、各都道府県が制定する条例によって処罰 されていました。

もちろん、条例は地方公共団体ごとに制定されるため、全国共通の内容ではありません。

たとえば、東京都の迷惑防止条例では電車内で盗撮した場合、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」となっています(ただし、非常習の場合)。

(参照)公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例|東京都

もっとも、これは東京都の条例であるため、東京都内において対象となる盗撮行為に及んだ場合にしか適用されません。そのため以前は、 まったく同じ行為であっても、地域によっては処罰対象とならないことや、刑罰が異なってくるケース もありました。

(※)同時に、「性的姿態撮影等処罰法」の処罰対象ではない盗撮行為であっても、場合によっては各都道府県の条例に違反する可能性があります。


電車内や駅における盗撮の具体的な事例は?

次に、電車内や駅構内での盗撮が問題となった事件の裁判をご紹介します。

いずれも、「性的姿態撮影等処罰法」ができる前の事件です。


【駅のホームで盗撮】懲役1年の実刑判決となった事例

駅のホームにおいて、盗撮目的で女子高生のスカートの中にスマートフォンを差し入れたとして、 『迷惑防止条例(宮城県)』違反により起訴された事件 です(平成29年 6月16日仙台地裁)。

被告人は、過去にも盗撮行為を繰り返しており、盗撮行為の常習性が認められることは明らかだと判断されました。

同種の前科があるうえ、被告人が不合理な弁解に終始して反省がみられないことから、実刑判決となっています。


【電車内で盗撮】執行猶予がついた事例

本件は、電車内で行われた盗撮事件です。

被告人は、電車内で対面する座席に座って眠っていた被害者の、スカートに覆われていない膝の間を狙って、カメラ付き携帯電話機を使った盗撮行為に及んでいます(平成16年 2月 3日東京地裁)。

迷惑防止条例違反(東京都)により、「懲役6ヵ月、執行猶予4年」の判決 となりました。

なお、この事件により被告人は勤務先を懲戒解雇されています。


電車内の盗撮に関するよくある疑問

最後に、「電車内の盗撮」に関わるよくある疑問について紹介します。


電車内で盗撮を見つけたらどうすればいい?

電車内で盗撮を見つけた場合、冷静に行動することが重要です。パニックに陥らず、適切な対応を心がけましょう。

まずは犯人確保のために周囲の乗客に状況を説明し、協力を求めることが重要です。可能であれば、すぐに駅員に知らせてください。

また、被害者が盗撮に気付いていない場合は、そのプライバシーや感情に配慮し、まずは被害者に盗撮の事実を知らせるようにしましょう。

なお、 現行犯でなくとも、証拠があれば、あとから犯人を捕まえること もできます。

そのため、あせらずに、自分自身や周囲の安全を第一に考えて行動してください。


電車で盗撮を疑われたらどう対処すればいい?

身に覚えがないのに電車内で盗撮を疑われた場合には、感情的にならず、以下のような対応を取りましょう。

1. 落ち着いて説明する
まずは冷静に、自分が盗撮を行っていないことを相手に伝えます。感情的にならず、状況を客観的に説明することが大切です。

2.協力的な態度を示す
疑いをかけられた場合、その場で逃げ出したりせず、堂々と協力的な態度を示しましょう。必要であれば警察や駅員に対しても協力を惜しまない姿勢を見せることが重要です。

3.証拠を提示する
自分のスマートフォンやカメラの内容を確認してもらい、盗撮行為を行っていないことを証明します。必要に応じて、他の乗客や駅員にも状況を説明し、目撃証言を求めることも考慮しましょう。

4.弁護士に相談する
万が一、警察に通報されるなどの事態に発展した場合には、早急に弁護士に相談することをおすすめします。自分の権利を守るために、適切な助言を受けることが重要です。

電車内の人を撮影しただけでも、犯罪になりますか?

電車内で他の乗客を撮影することが犯罪になるかは、その撮影行為の目的や状況によって異なります。

たとえば 正当な理由がある場合の撮影は、犯罪にはなりません。 電車内で犯罪が発生した際に、その状況を記録し、証拠として保存するための撮影は、正当な理由があると判断される可能性が高いでしょう。

しかし、その際にはなるべく相手の許可を取るか、少なくとも穏便に撮影を開始することをおすすめします。

また、電車内に不審人物やトラブルがあった場合であっても、 単なる興味本位で他の乗客を撮影することは、プライバシー侵害など、民事上の不法行為にあたる可能性 があります。

民事上の不法行為は、犯罪にはならない場合でも損害賠償請求の対象となり得ます。

したがって、電車内で他の乗客を撮影する際には、その行為が正当な理由に基づいているかどうかを十分に考慮するようにしてください。

少なくとも興味本位で他人を撮影することは控え、適切なマナーを守るよう心がけましょう。


まとめ

盗撮は卑劣な犯罪です。

従来は、軽犯罪法や各都道府県の条例によって処罰せざるを得ないケースもありましたが、 「性的姿態撮影等処罰法」の創設により、盗撮の厳罰化が図られています。

一方、性的姿態撮影等処罰法の処罰対象ではない盗撮行為であっても、場合によっては各都道府県の条例に違反する可能性があります。