ずっと閉店セールの店は、法的に大丈夫?「閉店商法」について、弁護士に聞いてみた!
弁護士
神野由貴
こんにちは、アソベン編集部です。
本日、弁護士に聞いてみる内容がこちら!
「閉店商法って何?」
「閉店商法は、法的にどんな問題がある?」
「どんなペナルティがあり得るの?」
などなど、詳しく教えてもらいます!
「閉店商法」について教えてくれる弁護士
【きょうの弁護士】神野 由貴
税関職員の経歴を経て、弁護士に。アディーレ法律事務所にて、不貞慰謝料の請求における交渉・訴訟、また弁護士の視点からマーケティング施策などに携わる。プライベートでは、小学生の頃からの歴史好き。歴史ドラマやYouTube、書籍など、普段から様々な歴史コンテンツを楽しみ、時間ができれば、歴史的な名所にも足を運んでいる。(兵庫県弁護士会 所属)
そもそも閉店商法とは、どんなもの?
よく街中で「閉店セール」と銘打った宣伝を見かけることがあります。こうした宣伝について、「閉店商法」と呼ばれることもありますが、具体的にどのようなものなのでしょうか。
「閉店商法」が行われる背景などとともにご説明します。
閉店商法の概要と特徴
閉店商法とは一般的に、 店舗が「閉店セール」や「閉店につき在庫一掃セール」といった表示を掲げ、消費者に対して “特別な割引で、お得に商品を提供している” と宣伝する、販売手法のこと を指します。
この手法は、消費者に「今しか買えない」「この機会を逃すと損をする」といった心理的なプレッシャーを与え、購買意欲を高めることが目的です。
ネガティブにも捉えられがちですが、閉店に伴い、在庫が無駄にならないよう、 「閉店セール」として安売りを行うこと自体は違法ではありません。 むしろ商品を安く買えるのだとすれば、「閉店商法」は客側にとってもありがたい存在だといえます。
閉店商法に関する問題点
ただし「閉店商法」に対し、問題点が指摘されることがあるのも事実です。
その問題点として、たとえば以下の点が挙げられます。
①長期間にわたる閉店セール
本来、閉店セールは短期間で終了するはずですが、数ヵ月、場合によっては数年にわたって「閉店セール」を続けることがあります。いわゆる「ずっと閉店セール」の状態です。
②誤解を招く表示
実際には閉店する予定がないにもかかわらず、「閉店」「在庫一掃」「最後のチャンス」といった表示を行い、消費者に誤解を与えることがあります。
③価格の不透明性
通常価格を高く設定し、割引後の価格を実際以上に割安に見せかけることがあります。
このような「閉店商法」を行えば、消費者の不信感を招き、信頼を損なうリスクがあります。
たとえば、さすがに何年も閉店セールをやっていたら近所の人はみんな気付くでしょう。
また、近所の人は実際に閉店しないことに気付いたとしても、たまたま通りかかった人などは、そうと知らず、「今買わなければ」と不合理な選択をしてしまうかもしれません。
なぜ問題のある「閉店商法」が行われているのでしょうか。その背景として、特に店舗側の以下のような状況が挙げられます。
① 在庫処分
売れ残った商品や季節外れの商品を早急に処分したい場合、「閉店セール」を装って販売することがあります。
②売上向上
一時的に売上を増加させたい場合、消費者の購買意欲を刺激する目的から、「閉店セール」と称することがあります。
③新規顧客の獲得
店舗の認知度向上を目的に、新規顧客を引き寄せるため、「閉店セール」といった文言が用いられるケースがあります。
閉店商法には、法的にどんな問題がある?
実際には閉店するつもりがないのに、長い間「閉店セール」を行っているなど、「閉店商法」はやり方によっては法的に問題となるケースがあります。
具体的には、『景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)』に違反する可能性が考えられます。
景品表示法とは?
『景品表示法』は、消費者が商品やサービスを購入する際に誤解を招くような表示を防止するための法律です。
この法律は、消費者が正確な情報に基づいて適切な選択を行えるようにすることを目的とし、主に以下のような表示を、「不当な表示」として禁止しています。
(1)優良誤認表示:商品の品質や性能などが実際よりも著しく優れていると誤解させる表示
(2)有利誤認表示:商品の価格や取引条件が実際よりも著しく有利であると誤解させる表示
閉店商法と『景品表示法』違反のリスク
たとえば、「通常価格3万円のところ、閉店セールで半額」と表示しているとします(いわゆる「二重価格表示」)。
しかし、 実際にはその通常価格で販売した実績がないのであれば、『景品表示法』の禁止する「有利誤認表示」に該当すると考えられます。消費者を誤解させ、不当な集客を行っているといえるためです。
このような場合には、『景品表示法』違反が問われることになるでしょう。なお、最近相当期間にわたって通常価格で販売していた実績がある場合には、上記のような価格表示を行っても特に問題はありません。
また 実際には閉店する予定がないのに「閉店セール」を謳って営業を行った場合も、「有利誤認表示」に該当する可能性がある といえるでしょう。これも同様に、消費者を誤解させ、不当な集客を行っているといえるためです。
閉店商法で、どんなペナルティを受ける可能性がある?
「閉店商法」が『景品表示法』に違反する場合、事業者はさまざまなペナルティを受けるリスクがあります。
行政上のペナルティ
たとえば、次のような行政上のペナルティを受ける可能性があります。
①措置命令
措置命令は、当該表示の差止めや再発防止策の実施などを命じるものです。たとえば、「閉店セール」において景品表示法に違反する表示行為があると判断された場合、その表示行為の差止めや訂正を命じられることがあります。
②課徴金納付命令
『景品表示法』における「優良誤認表示」や「有利誤認表示」があった場合、課徴金納付命令の対象となります。
課徴金の金額は、違反行為の内容や規模によって異なりますが、基本的には違反行為によって得た売上額に応じて科されます。
刑事罰を科される可能性も
措置命令に違反した場合、つまり措置命令に従わずに違法な表示を続けた場合には、「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」に処される可能性があります。
また、法人の代表者や使用人などが措置命令に違反した場合、行為者が罰せられるだけでなく、法人に対して「3億円以下の罰金刑」を科されることもあります。
なお、故意に「優良誤認表示」や「有利誤認表示」を行ったケースでは、措置命令を介在させず、いきなり「100万円以下の罰金」に処される可能性もあります。
消費者ができる閉店商法への対策
「閉店商法」に騙されないためには、消費者自身が対策を講じることも大切です。
最後に、閉店商法を見抜くためのポイントなどについてご説明します。
閉店商法を見抜くポイント
閉店商法に騙されないためには、以下のポイントに注意することが有効です。
①閉店セール期間に注意
本来、閉店セールは短期間で終了するものです。数ヵ月、あるいはそれ以上にわたって「閉店セール」を続けているなら、法的に問題があるかもしれません。定期的に同じ店舗を訪れ、セール期間が異常に長い場合は注意した方がいいでしょう。
②価格の透明性を確認
閉店セールの商品が本当に割引されているかどうかを確認するため、他の店舗やオンラインショップで同じ商品の価格を比較してみましょう。
③店舗の実際の閉店予定を確認
店舗が本当に閉店する予定があるのかどうかを確認するために、店舗スタッフに直接質問することも有効です。
④口コミやレビューをチェック
他の消費者の口コミやレビューも、その店舗が違法な閉店商法を行っているかどうかを判断する手がかりになります。特に、長期間にわたって同じようなセールを行っているという口コミが多い場合、注意が必要です。
消費者庁も情報提供を行っている
消費者庁では、消費者が悪質商法の被害にあわないよう、情報提供を行っています。
消費者庁のホームページでは、『景品表示法』関係のガイドラインも公開されているので、 閉店商法に限らず、「これは法的にどうなの?」と感じる表示や広告があれば、確認してみるとよいでしょう。
また、あまりに悪質と思われる閉店商法があれば、消費者庁や消費生活センターなどに連絡するといいかもしれませんね。
まとめ
「閉店商法」は、一見するとお得なセールに見えるかもしれません。
しかし、なかには何年もずっと閉店セール中であるなど、消費者に誤解を与えるだけでなく、それによって違法と判断されるケースもあります。
特に考えられるのは『景品表示法』違反であり、違反した事業者は行政上のペナルティや刑事罰を受ける可能性があります。
消費者としては、「閉店セール」に騙されないよう、期間や価格の透明性にご注意いただければと思います。
補足解説