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在宅起訴とはどんな意味?条件や流れ、略式起訴との違いなど弁護士に聞いてみた!

弁護士

川原朋子

こんにちは、アソベン編集部です。

本日、弁護士に聞いてみる内容がこちら!


「どういうときに、在宅起訴になる?」
「在宅起訴の流れは?」

ニュースでよく聞く言葉ですが、実際にどんな意味なのか、どんな流れで進むのか、よく分からないという人も多いはず。詳しく教えてもらうので、ぜひチェックしてください!

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【きょうの弁護士】川原 朋子
青森県出身。「人を直接助ける仕事がしたい」と、働きながら夜間のロースクールに通い、司法試験に合格。弁護士に加え、メンタル心理カウンセラーなど多数の資格を持つ。現在、アディーレ法律事務所では、弁護士の立場からマーケティング施策などに従事。プライベートでは海外ドラマが好きで、なかでも好きなのは「刑事もの」や「弁護もの」。特に女性弁護士アリーが主人公の『アリーマイラブ』は、子どもの頃から何度も見返すほどのお気に入り。(埼玉弁護士会 所属)


在宅起訴とは

在宅起訴は、簡単に言えば、被疑者が逮捕・勾留されず(身体を拘束されず)、自宅にいながら起訴されることです。

(※)一度逮捕・勾留されて釈放された後に、起訴されることも、在宅起訴といわれることがあります。

在宅起訴のより詳しい内容について、詳しく見ていきましょう。


(1)在宅起訴の基本

「犯罪にあたる行為をしたら捕まる=逮捕される」と考えやすいですが、逮捕されるとは限りません。

ちなみに「逮捕」とは、最大72時間に限られる身体拘束です。その後、勾留が認められれば、引き続き最大20日間拘束されます。逮捕・勾留された場合、検察官は通常、その間に起訴するかしないかを判断します。

事件の内容や被疑者の事情などを考慮して、こうした逮捕(や勾留)をされずに起訴されることもあります。 例えば、前科がなく被害額の少ない万引きや交通事故などは、在宅起訴の対象になることが多いです。

重要なのは、在宅起訴だからといって罪が軽いわけではないということ。罪の内容や裁判の結果次第では、実刑判決を受ける可能性もあります。


(2)在宅事件と身柄事件の違い

被疑者を逮捕・勾留して身体を拘束する刑事事件について、「身柄事件」と言うことがあります。被疑者を逮捕・勾留するのは、捜査のためです。

一方で、被疑者を逮捕・勾留せずに捜査することもあり、それを「在宅事件」と言ったりします。

身柄事件と在宅事件の大きな違いは、自由の制限度合いです。

【在宅事件】
自宅で生活しながら任意の捜査に応じ、在宅起訴後も自宅から裁判に臨める


【身柄事件】
警察署や拘置所で拘束された状態で捜査に応じ、裁判に臨む。起訴後は保釈されることも。

在宅事件の場合、基本的に自宅で日常生活を送りながら、仕事をしたり、弁護人と相談したりできるメリットがあります。

一方、身柄事件は、住み慣れた自宅からは離され、様々なルールのある留置所などで過ごすことになり、外部との接触が制限されます(逮捕中は弁護人以外と面会できない)。弁護人とも接見という方法でしか会うことができません。


(3)【罪名別】逮捕される割合

それでは、どれくらいの事件が、逮捕されて身柄事件となるのでしょうか。

令和4年度の統計で、罪名別で、どれほどの被疑者が逮捕されたのかわかるものがあります。

全体(※)で、「身柄を拘束された事件は34.4%」です (逮捕後釈放された人は除く)。

(※)過失運転致死傷等及び道交法違反を除く

思ったより少ないと思った方も多いのではないでしょうか。

一番割合が高いのが、73%の『恐喝罪』、一番低いのが15.9%の『銃刀法違反』です(その他は除く)。

(参考)令和5年版 犯罪白書 第2編/第2章/第3節|法務省


(4)在宅事件が選択される理由

上記統計によれば、6割以上で逮捕されていません(逮捕後釈放された人は除く)。

なぜ、こんなにも「逮捕されない事件=在宅事件」が多いのでしょうか。

逮捕は、身体を拘束して自由を奪う重大な権利侵害なので、法律上、次の2つの要件が必要であり、厳しく規制されていることが理由として考えられます。

1. 被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある
2. 逮捕の必要性がある(逃亡するおそれや、証拠を隠滅するおそれなど)

例えば、初めての軽微な窃盗で反省している人や、過失による交通事故の加害者などが、逮捕の必要性がないとして逮捕されず、結果として在宅起訴される対象になりやすいです。

ただし、初めての窃盗、過失による交通事故だからといって、必ず逮捕されないということではありません。

逮捕の理由や必要性については、個々の事件についてケースバイケースで考えられます。


在宅起訴までの流れ

在宅起訴に至るまでの過程を、わかりやすく3つのステップに分けて説明していきます。

(1)捜査から書類送検まで
(2)検察官による起訴判断
(3)起訴状の送達


(1)捜査から書類送検まで

最初は、警察による捜査から始まります。検察が捜査を主導することもありますが、多くは警察による捜査が先行します。

【捜査の流れ】
1. 事件の把握
2. 警察による捜査開始
3. 任意捜査(任意による事情聴取など)
4. 強制捜査(逮捕や捜索・差押えなど)
5. 書類送検

在宅起訴の場合、逮捕されずに任意の事情聴取を受けるなどして捜査機関が証拠を収集します。

例えば、交通事故の加害者として、任意で警察署に呼び出されて事情を聴かれたり、現場で説明したりするようなケースです。

在宅のまま捜査が終わると、警察は事件の内容をまとめた書類を検察庁に送ります。これを一般的に「書類送検」と呼びます。

この時点では、まだ起訴されるかどうか決まっていません。


川原弁護士

【補足解説】

実は法律上、書類送検という用語はありません。

逮捕されている場合、逮捕されている被疑者の身柄が検察官に送致され、検察官がさらに身体の拘束が必要と判断すると、裁判所に勾留請求を行います。

在宅事件だと、被疑者の身柄は検察に送られず、書類だけ送ることになりますので、それをとらえて「書類送検」と呼ばれるようになったようです。


(2)検察官による起訴判断

検察官は、警察から送られてきた書類を基に、必要であればさらに捜査をして、起訴するかどうかを判断します。

検察官は、次のように、起訴するかしないかを判断する裁量があります。

刑事訴訟法248条
犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

統計によると、2023年の起訴率は約30.8%。具体的には、刑法犯と特別法犯の総数(道路交通法等違反を除く)は33万518件で、そのうち10万1885件が起訴されています。

起訴されれば、有罪率は99.9%とも言われていますが、起訴される割合はそこまで高くないことが分かりますね。

ちなみに、過失により交通事故で人を死傷させた『過失運転致死傷等罪』の起訴率は、13.5%とさらに低くなっています。

(参考)検察統計調査 検察統計被疑事件の受理及び処理状況 8 罪名別 被疑事件の既済及び未済の人員 -自動車による過失致死傷等及び道路交通法等違反被疑事件を除く- | 統計表・グラフ表示 | 政府統計の総合窓口


(参考)令和5年版 犯罪白書 第4編/第1章/第3節/1|法務省

また起訴されるとしても、正式な刑事裁判が開かれるか、略式手続、いわゆる「略式起訴」が選択されるかで、その後の手続きはかなり異なってきます。この違いは後で説明します。


(3)起訴状の送達

最後に、検察官が正式な「刑事裁判を求める処分=公判請求」をすると、裁判所を通じて被告人(起訴された人)に起訴状が送られます。

【起訴状に記載される主な内容】
・被告人の氏名や年齢、職業、住居、本籍など
・起訴された罪名と罰条
・犯罪事実(公訴事実)の概要

在宅起訴の場合、起訴状が自宅に届きます。

もし起訴状が届いた段階で弁護士に依頼していなかったら、すぐに弁護士に依頼する必要があります。

起訴状とともに、弁護士選任についての書面も同封されているはずですので、自分で選んで弁護人をつけるか、国選弁護人に依頼するかを選びます。


川原弁護士

【補足解説】

捜査の対象となったら、逮捕されずに済んだとしても、すぐに刑事を扱っている弁護士に相談・依頼するようにしましょう。

適切に対応すれば、起訴されずにすむ可能性もあるためです。起訴されれば有罪・前科がつく可能性が非常に高いですが、起訴されなければ前科もつきません。


在宅起訴後の流れ

在宅起訴されたら、どんな流れで裁判が進むのでしょうか。

ここでは、公判請求されて、公開の法廷で裁判が行われるケースを前提に説明します。

在宅起訴後の流れは、大きく次の3つのステップに分かれます。


(1)公判前整理手続

『公判前整理手続』は、公判の前に行われる、事件の争点や証拠を決定したり、審理の計画を立てたりする重要な準備手続です。

ただし、 争点が単純で、軽微な事件では、『公判前整理手続』がとられないことも多いです。裁判所が、当事者の意見を聞いたうえで、『公判前整理手続』を行うかどうかを決めます。

令和4年の統計ですが、裁判などで終了した事件のうち、地方裁判所の第1審刑事事件で、『公判前整理手続』が行われた人数は931人です。事件数は4万件を超えるので、『公判前整理手続』がとられるのは極めて限定的です。

(参考)令和4年司法統計年報2刑事編|裁判所


(2)公判(裁判)の進行

『公判前整理手続』が終了したら、第1回期日が指定され、公判が始まります。

(※)『公判前整理手続』がない場合は、公判請求された後、第1回期日が指定されて公判が始まります。

【公判の主な流れ】
1. 人定質問:裁判長が、出頭している被告人が人違いでないかどうか確認する
2. 起訴状朗読:検察官が起訴状を朗読する
3. 権利告知:裁判長が、被告人に対し黙秘権などの権利を告知する
4. 被告人・弁護人の陳述:被告人・弁護人が起訴された事実について陳述する(認める、認めないなどを述べる)
5. 証拠調べ:検察官による冒頭陳述、証拠調べ、証人尋問、鑑定、被告人質問など
6. 論告求刑(検察側):検察官が、論告と求刑意見を述べる
7. 弁論(弁護側):弁護人の最終弁論と、被告人の最終陳述
8. 判決

在宅起訴の場合、被告人は自宅から裁判所に通うことになります。

例えば、『自動車運転過失致傷罪』で在宅起訴された交通事故の加害者は、第1回期日ですべての手続きが終わらなければ、複数回にわたって法廷に出頭することになるでしょう。

公判で検察側は、裁判所に認めてもらいたいと主張する事実について、証拠をもって証明しようとします。

弁護人や被告人は、それをすべて認めることもあります。他方、事実と異なる点があるのであれば、否定したうえで争うことになります。

在宅起訴だからといって軽く考えてはいけません。裁判の結果次第では、実刑判決を受ける可能性もあります。

被告人は、弁護士とよく相談しながら、自分の言い分をしっかり伝えることが大切です。


(3)判決後

判決後どうなるかは、下される判決によって異なります。

【主な判決の種類】
・有罪判決
 例)罰金刑、懲役刑、禁錮刑、執行猶予付き(全部・一部)
・無罪判決

日本は三審制なので、地方裁判所で言い渡された判決について不服がある場合、控訴して争うことができます。

控訴しなければ、第1審の判決正本が送達された翌日から、2週間で判決は確定します。

判決が確定した後、有罪判決で罰金刑を受けた場合は、決められた罰金を納めることになります。

懲役刑で執行猶予がついている場合、執行猶予期間中に他の罪を犯したりして執行猶予が取り消されなければ、実際に刑務所に入ることはありません。

執行猶予が付かない懲役刑や禁錮刑の場合、在宅起訴された人はのちに「呼び出し状」が届きますので、それに従って出頭し、刑に服することになります。


在宅起訴と略式起訴の違い

「在宅起訴」は、ご説明した通り、逮捕されずに、または逮捕されて釈放された後に、起訴されることです。

対して「略式起訴」は、刑事裁判を開かず、被疑者の同意を条件に、書面の審理によって一定範囲の財産刑を科す、簡易な手続きです。

法律上、「略式手続」と呼ばれます。起訴の一種で、逮捕されるか否かとは関係ありません。

特に略式起訴は、軽微な犯罪についてのみ認められる手続きです。そのため在宅事件について、公判請求ではなく略式起訴が選択されることも少なくありません。

令和2年の統計ですが、検察が処理した事件のうち、公判請求されたのが9.8%であるのに対し、略式手続の請求をしたのが21.5%にも上ります。

そして、自動車による『過失運転致死傷等』の罪に限ると、令和4年の統計ですが、公判請求されたのはわずか10.8%で、実に89.2%が略式手続によっています。

【略式起訴の特徴】
・簡易裁判所が管轄する事件のみ
・刑罰は100万円以下の罰金又は科料のみ(懲役などは×)
・書面で審理が行われ、被告人は公開の法廷へ出頭する必要がない
・被疑者の「異議がない」との書面が必要

(参考)令和3年版 犯罪白書 第2編/第2章/第4節|法務省

(参考)令和4年における被疑事件の特色(結果の概要)|法務省


在宅起訴に関するよくある質問

在宅起訴されて公判が開かれるケースについて、よくある質問に回答します。


(1)在宅起訴でも前科はつくのか

在宅起訴でも、有罪判決を受ければ前科がつきます。

前科がつくと、今後の転職活動で不利になるおそれがあります。犯罪の内容によっては、海外旅行に行きたくても、渡航できない可能性のある国もあります。

ただし、在宅起訴されずに、起訴猶予や不起訴処分となった場合には、前科はつきません。

警察の捜査の対象となったときは、早めに弁護人に依頼して、被害者と示談するなど不起訴を目指して活動していくことが重要です。


(2)在宅起訴されると仕事に影響するのか

在宅起訴された場合、会社にバレる可能性は高くありません。

会社に関連しない事件であれば、捜査中や在宅起訴する際に、警察や検察が会社に連絡することはないでしょう。

公判期日には出頭する必要がありますが、有給休暇などで仕事を休むことができれば、会社にはバレなですむ可能性があります。

ただし、会社のお金を盗んだとか、会社が関連する事件の場合、捜査のため会社に連絡がいきます。また、社会的関心の高い事件の場合、在宅起訴であっても実名報道されることがあり、そのような情報から会社にバレる可能性はあります。


(3)在宅起訴されたら、旅行や出張はできるのか

在宅起訴中も基本的な行動の自由があります。学校に行ったり、仕事を行ったりすることに特に制限はありません。

しかし、普段どおりの生活ができるとしても、長期の出張や海外旅行は避けた方が無難でしょう。

特に、「死刑、無期もしくは長期2年以上の刑に当たる罪につき訴追されている者」については、パスポートを取得しようと思っても、発給されないことがあります。

出張が必要な際には、事前に必ず弁護人に相談するようにしましょう。

在宅起訴中は、普段通りの生活を心がけつつ、裁判所や弁護人からの連絡にすぐ対応できる状態を保つことが大切です。


(4)在宅起訴されると家族にバレるか

起訴されたことを、家族に絶対に知られたくない人もいます。

しかし、 同居の配偶者や親については、事情を説明したうえで、情状証人として書面を書いてもらったうえで裁判所に提出し、証言してもらうなど、有罪となっても執行猶予判決が出るように活動することが多いです。

また、裁判所から起訴状が届いたり、弁護人と相談したりすることで、同居の家族が異変に気づいてバレることもあります。

近しい家族には、隠し通すことは難しいです。正直に説明したうえで協力を求めた方がいいケースが多いので、弁護人とよく相談するようにしましょう。

在宅起訴に関する不安や疑問は人それぞれです。分からないことがあれば、必ず弁護士に相談しましょう。


まとめ

在宅起訴は、刑事事件について、逮捕されずに又は逮捕されて釈放された後に裁判を受ける手続きです。 身体を拘束されないため、基本的に普段と同じような生活を送ることができますが、決して軽く考えてはいけません。

もし警察の捜査の対象となったら、逮捕されなくても、なるべく早い段階で刑事事件を扱っている弁護士に依頼し、不起訴を目指して適切に対応することが重要です。