憲法と法律はどう違う?憲法違反や改正の方法など、弁護士に聞いてみた!
弁護士
相原彩香
こんにちは、アソベン編集部です。
本日、弁護士に聞いてみる内容がこちら!
「憲法と法律の違いって??」
「憲法違反するとどうなるの??」
「憲法改正は難しいの??」
などなど、詳しく教えてもらいます!
憲法と法律の違いについて教えてくれる弁護士
【本日の弁護士】相原 彩香
一橋大学法科大学院を経て、弁護士に。現在はアディーレ法律事務所にて、主に「法律記事ライター」として、「日常のトラブルや悩み」の解決につながる、法律記事の執筆を手掛ける。月に一度は旅行に行くほどの旅行好き。
憲法と法律との違いってなに?
憲法と法律の1番の違いは、 守らなければならない対象が違うことです。
まずはそれぞれの概要から、具体的な違いについてご紹介します。
そもそも憲法とは?
憲法は、国が守らなければならない基本的なルール です。現在の日本の憲法は「日本国憲法」といい、1946年11月3日に公布されました(1947年5月3日に施行)。
憲法第九十九条
天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
日本国憲法には、103条の条文があり、国の政治のシステムや国民の権利義務などが定められています。
日本には法律や条例など、様々なルールがありますが、そのなかでも 憲法は「最高法規」 と呼ばれています。つまり、憲法はどのようなルールよりも優先されるのが原則です。
憲法第九八条(最高法規)
【第一項】この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有さない。
そもそも法律とは?
一方で 法律は、国民が守らなければいけないルール です。国民によって選ばれた国会議員が集まる、国会において作られます。
民法や刑法、道路交通法、公職選挙法など、日本に存在する法律は約2,000個(※)あります。さらに世の中の動向にあわせ、新たな法律もどんどんつくられています。
より安全で安心に暮らせる社会にするため、あらゆる国民の営みに、法律というルールは張り巡らされているのです。
(※)参考:e-GOV法令検索
憲法と法律の違いは、守らなければならない対象
ここまでご紹介したように、憲法は「国が守らなければならないルール」、そして法律は「国民が守らなければならないルール」です。
それぞれのルールが適用される、具体的な場面を見てみましょう。
たとえば、国が「政府を批判する表現は禁じる」という法律をつくりたいと思ったとします。 これは憲法に違反しているためできません。
なぜなら、憲法第21条では国民の「表現の自由」を保証しているからです。
憲法第二一条(集会・結社・表現の自由)
【第一項】集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保証する。
この憲法によって国は、国民の「表現の自由」を侵すような行為(法律をつくるなど)を行うことはできません。
戦前、日本では、男女が不平等だったり、政府を批判する表現ができなかったりしていました。
しかし、戦後に定められた日本国憲法では、「法の下の平等」や「表現の自由」が定められ、 国が国民の権利や自由を奪うことがないように、国民を守っているのです。
憲法第一四条(法の下の平等)
【第一項】すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない。
一方で国民は、法律というルールを守らなければなりません。
例えば、刑法第235条では、以下のようなルールを定めています。
刑法第二三五条(窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(※)2025年、懲役刑・禁錮刑は廃止され拘禁刑に一本化されます。
つまり 国民は、「窃盗はしてはいけない」というルールを守らなければなりません。
法律を守らず、「窃盗をする」と、刑罰に処せられてしまいます。
憲法違反するとどうなるの?
それでは憲法に違反すると、どうなるのでしょうか。
国民が憲法に違反しても、刑罰に処されるといったことはありません。 憲法はあくまでも国が守らなければならないルールであって、国民を縛るものではないからです。
一方で、国が憲法に反する法律を作り、裁判で「憲法違反」と判断された場合、国は憲法に反した法律をすぐに是正しなければなりません。そして、それにより損害が発生している場合には賠償などを行わなければならないこともあります。
(1)憲法違反の判断は誰がするの?
憲法違反の判断は、裁判所が行います。
ただ、たとえば「この法律は憲法に違反してそう」といった内容だけで、憲法違反かどうか判断してくれるわけではありません。
憲法違反に関する具体的なトラブルがあり、それを裁判所に訴えて初めて、憲法違反かどうか判断してくれます (トラブルに付随して審査をするという意味で「付随的審査制」といいます)。
憲法第八一条(法令審査権と最高裁判所)
最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
(2)法律が憲法違反と判断されたことはある?
憲法違反と判断されたことはあります。
憲法違反は具体的に、 「法令自体が憲法に違反する(法令違憲)」と「具体的な場面で、その法令を適用することが憲法に違反する(適用違憲)」 があります。
ここではそれぞれ1つずつ事例を紹介します。
|(法令違憲)女性に再婚禁止期間があるのは違憲
実は2024年4月まで、男性は離婚後すぐに再婚できるのに、女性は再婚が一定期間できないという法律がありました。
改正前民法第七三三条(再婚禁止期間)
【第一項】女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
これは離婚後女性がすぐに再婚してしまうと、離婚前後に生まれた子供の父親がわからなくなってしまうという理由のためです。
しかしこの法律に対し、 男性はすぐに再婚できるのに、女性だけが再婚できないのは、憲法で定めている「法の下の平等」や「両性の本質的平等」に違反するのではないか と問題になっていました。
憲法第二四条(家族生活における個人の尊厳と両性の平等)
【第一項】婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
【第二項】配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
そこで、離婚後に望んだ時期に再婚できなかった女性が、「国がこの法律を改廃しなかったことで、精神的苦痛を受けた」と主張し、国に対して慰謝料を請求する裁判を起こしました。
そして2015年12月16日最高裁判所。100日を超える再婚禁止期間を定める法律は、違憲だと判断されました。
それを踏まえて2016年6月7日、再婚禁止期間が100日に短縮した法律に改正(施行)され、そして2024年4月1日、再婚禁止期間自体を廃止する法律に改正(施行)されました。
|(適用違憲)約15年間刑事裁判を受けられないのは違憲
長い期間にわたって刑事裁判を受けられないとすると、例えば「いつ刑罰を受けることになるのか」など、被告人は不安な気持ちをずっと抱えたまま過ごさなければなりません。
そこで、被告人の弁護側は約15年間刑事裁判を受けられなかったことが、憲法の定める「迅速な裁判を受ける権利」に違反するため、この刑事裁判は打ち切るべきだと主張しました。
憲法第三七条(刑事被告人の権利)
【第一項】すべての刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
1972年12月20日最高裁判所で、約15年間も裁判を受けられないのは違憲と判断し、免訴となり裁判が打ち切りとなりました。
これは 裁判を受けられないという法律を作ったわけではないので法律自体が憲法に違反するというものではありません。 しかし、「ずっと刑事裁判が受けられないようになっていた状態」になってしまったことが違憲とされたのです。
憲法の改正は、法律の改正とどう違うの?
憲法の改正は、法律の改正と違い、厳格なルールがあります。
詳しく見ていきましょう。
法律の改正はどうやる?
法律の改正は、基本的に内閣または国会議員が法律案を提出して、衆議院と参議院の両議院で可決されると行われます。
法律の改正には、「各議院の総議員3分の1の出席」と「出席議員過半数の賛成」が必要です。そして、衆議院で可決したが、参議院で否決されたとしても、再度衆議院で出席議員の3分の2以上の賛成があれば、可決されます。
時代の流れに合わせて法律も変える必要があるため、法律の改正要件は憲法と比べると緩く設定されています。
たとえば与党に所属する議員だけで過半数に達すると、野党がいくら反対していても法律を改正することができます。
さらに、与党に所属する議員が衆議院で3分の2以上の占めると、たとえ参議院で否決されても再可決が可能なため、より強い力を得ることになります。
そのため、選挙では与党に所属する議員が過半数に達するか否か、衆議院で3分の2以上を達成するか否かが注目されているのです。
【法律改正に関する憲法】
憲法第五九条(法律案の議決、衆議院の優越)
【第一項】法律案は、この憲法に特別の定めがある場合を除いては、両議院で可決したとき法律になる。
【第二項】衆議院で可決し、参議院でこれと異なった議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上で再び可決したときは、法律となる。
憲法第五六条(定足数、表決)
【第一項】両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
【第二項】両議院の議事は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
憲法の改正はどうやる?
憲法の改正は、「総議員の3分の2以上賛成」かつ「国民の過半数の賛成」が必要とされています。
憲法は国を縛り、国民の権利や自由を守るためのルールですので、憲法が簡単に改正されてしまっては国民の権利や自由が奪われることになりかねません。そのため、 憲法の改正は法律改正に比べると、とても厳格な手続きが必要とされているのです。
実際、外国では憲法改正が行われている国も多くありますが、日本では戦後70年以上、一度も改正されたことはありません。
この高いハードルこそが、今まで日本で一度も憲法が改正されてこなかった大きな理由の1つです。
憲法第九六条(改正の手続)
【第一項】この憲法の改正は、各議員の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
まとめ
憲法は国が守るべき最高法規であり、国民の権利や自由を保障します。
例えば、憲法第21条は「表現の自由」を保障しており、これに反する法律は無効です。
憲法違反の判断は裁判所が行い、具体的な事例として「再婚禁止期間」や「迅速な裁判を受ける権利」に関する判例があります。憲法改正には厳格な手続きが必要で、国民の権利を守るための高いハードルが設定されています。
普段の生活で、あまり憲法を意識することはないかもしれませんが、憲法は私たちの権利や自由を守る重要な基盤です。ぜひ憲法に関するニュースなどにも、目を向けてみていただければと思います。